ディズニー編③

アラジンの巻✨

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ディズニーアニメーション映画「アラジン」

1992年制作

DVDカバーより引用

 

「貧しくても純粋な心を持ち、夢と希望を胸に生きる青年アラジンが、魔法の洞窟で不思議なランプを見つけ、魔神ジーニーに3つの願いを叶えてもらいます。一つ目の願いは、市場で偶然出会い、一目惚れした王女ジャスミンにふさわしい王子になることでした。

王国支配を企み、ランプを自分のものにしたい、大臣ジャファーとの戦いや様々な冒険を通して、偽ってうわべを飾るのではなく、ありのままの自分であることの大切さに気がつきます。」

 

「アラジン」は、「アラビアンナイト」の中でも最も有名な「アラジンと魔法のランプ」を原作に、ディズニーらしい脚色が加えられた作品です。

アラジンとジャスミンが魔法のじゅうたんに乗って、エジプトのピラミッド、ギリシアパルテノン神殿、中国長安の都の、打ち上げられる花火に染まる宮殿を巡るロマンティックなシーンが大好きでした。野生馬が駆けているのはトルコでしょうか?

 

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ディズニーアニメーション映画「アラジン」

1992年制作

パンフレットより引用

 

アラビアンナイト」の原名は、「アルフ・ライラ・ワ・ライラ(千夜一夜)」といい、その題名どおり、千と一夜の間に、一人の賢く美しい娘が王様に語って聞かせる夜話という形になっています。

 

「今は昔、インドと中国を支配するシャハリャールという王がいました。彼の弟は、サマルカンドの王シャー・ザマン。ある時、弟が兄を訪ねようと宮殿を出発しましたが、途中で忘れ物に気づいて引き返してみると、そこで見たものは、奴隷と浮気をする妃の姿でした。弟王は即座に2人を斬り殺して兄王の所へ行きましたが、ショックで心は楽しまず、食も進みませんでした。ところが、ある日、兄の留守中に、兄の妃が愛人の奴隷と乱行の限りを尽くしているのを目撃し、「兄さんより僕の方がまだ幸せだった」と自分より不幸な人がいるのを知り、晴れやかな気持ちになりました。弟の様子の変化に気づいた兄は弟を問い詰め、ことの真相を聞き出しました。失意の兄は弟を誘って宮殿を抜け出し旅に出ます。

その旅先で、とある湖水で休んでいると、水中から巨大な魔王が、櫃(ひつ)を頭に乗せて出てくるのを見て、近くの樹上に隠れました。魔王は木の下に座り、櫃の中から美女を出し、その膝を枕に眠ってしまいます。美女は樹上を見上げて二人の王を誘い、自分に従わなければ魔王を起こしてそなたたちを殺させると交情を迫りました。兄弟はやむを得ず、美女の情欲を満たしてやりますが、こと終わった後、美女は兄弟の指輪を取り上げ、これを今のように魔王の目を盗んで密通した男たちから巻き上げた指輪をつなげた数珠に加えました。その数は570個に達しており、美女が言うには、自分は婚礼の夜にさらわれて、七重に鍵のかかる箱に閉じ込められたが、女というものは、やろうと思えばどんな邪魔があってもやってのけるものだと言うのでした。

これで完全に女性不信に陥った兄王は(弟王はこの後、まったく物語に出てきません)、まず、彼の妃らを皆殺しにし、それからというものは、一夜限りの妻として処女を迎えては、翌朝には殺してしまうようになります。これを3年も続けたために、とうとう都に若い娘がいなくなってしまいました。

これをやめさせようと、大臣の娘シャハラザードが父の反対を押し切って、彼女の妹と共に王の所へ行き、王の枕もとで夜ごと物語を語るのですが、ちょうどテレビの連続ドラマのように、いいところで続きはまた明日と焦らし、続きを聞きたい王は彼女を殺すことができず、とうとう話は千と一夜続き、その間、王はシャハラザードとの間に、子宝にも恵まれていました。王はいつしか心からこの賢い女性を愛するようになっていて、女性不信の念も消え失せていました。王はシャハラザードを妃に迎えて、幸せな余生を送りました」

 

アラビアンナイト」は、表現力に富むアラビア語で書かれているということが重要で、アラビア語の味わい深さを他の言語に訳すことは、どんなに苦心しても難しいと言われています。アラビア語には多様な派生形があり、対をなす双数という概念があり、章句の繰り返し、韻を踏む美しい響きがあります。

イスラーム教の経典を「コーラン」と言いますが、当初はアラビア語以外への翻訳は禁止されていました。 アラブの人々がコーランを朗誦しながら感涙にむせぶのは、宗教心からだけではなく、アラビア語の抑揚や響きに陶酔するからだとも言われています。

 

もう一つ、「アラビアンナイト」の特徴は、イスラーム独特の宿命感に根差した話しが多く、世の中の全てはアッラーの御心次第であるという世界観に徹している点です。

イスラーム教の「六信五行」の「六信(イスラーム教徒が信じる6つのこと)」の一つ、「天命」は、「人間の諸行為はすべてアッラーが創造したもので、神の意思は人間の意思・行為を通じて現れる」というものです。

 

ちなみに、「五行(イスラーム教徒が行うこと・義務とされる5つのこと)の一つ「喜捨(ザカート)」は「自分よりも貧しい人に可能な限り施しを行うこと」です。

日々の糧にも困り、盗みを働くほど貧しいアラジンが、市場で盗んだパンを貧しい子どもに与えていたのが、この「喜捨(ザカート)」にあたります。

 

アラビア半島とアフリカ北部の乾燥地帯に帯状に広がる、アラブと呼ばれる地に誕生し、現在16億人以上が信奉するイスラーム教を語らずして、「アラビアンナイト」を語ることはできません。

 

6世紀の後半、アラビア半島西部のメッカの町に生まれたムハンマドマホメット)が、7世紀初めに、唯一神アッラーから啓示を受け、創始した宗教がイスラーム教です。ムハンマドアラビア語で、マホメットはフランス語です。

イスラーム教では、アッラーの前では、信徒はみな平等です。このことから、イスラーム教はアラブ人の「民俗宗教」にとどまらず、キリスト教や仏教と同じ「世界宗教」に発展することになります。

 

信徒の平等を唱えたイスラーム教は、メッカの大商人らの猛反発を受けます。自身の首に懸賞金をかけられたムハンマドは身の危険を感じ、622年、メッカからメディナに移住しました。これを聖遷(ヒジュラ)と言います。ムハンマドは、その10年後に死にますが、カリフと呼ばれるムハンマドの後継者が4人続いた「正統カリフ時代」にイスラーム教の共同体はさらに発展していくことになります。イスラーム教を信仰しているアラブ人が居住する地域以外にも戦争をしかけていき、イスラーム教以外の宗教を信仰する異教徒との戦いを聖戦(ジハード)と呼びました。ジハードで戦死した場合、即天国行きとなるために、死を恐れないイスラーム戦士は無敵の強さを誇りました。642年にササン朝ペルシアを破り、滅亡に追い込んでいきます。

 

4人目のカリフを暗殺し、権力を握ったウマイヤ家が建国したのがウマイヤ朝です。そのウマイヤ朝を打倒したのがアッバース朝で、「アラビアンナイト」にも度々登場する第5代カリフ「ハールーン・アッラーシッド」の時代に最盛期を迎えます。アッバース朝の首都バグダードは、創建された当時、円形をした見事な計画都市でした。「平安の都」と呼ばれたバグダードですが、13世紀にモンゴル軍の侵攻を受けた時、徹底的に破壊され灰燼(かいじん)に帰してしまったため、現在ある建造物は皆、その後新しく再建されたものです。

 

ディズニー映画「アラジン」で、アラジンが暮らしている「アグラバー」の街は、バグダードがモデルだと思い込んでいましたが、ジャスミンが国王である父と住んでいるサルタン宮殿は、インドのアーグラーという都市にある、墓廟として有名な「タージ・マハル」によく似ています。白大理石でできた美しい景観は宮殿のようですが、ムガール帝国第5代皇帝シャー・ジャハンが、愛妃ムムターズ・マハルのために建てた墓廟、つまり世界で一番美しいお墓です。

 

「アラジンと魔法のランプ」の冒頭に、「今は昔、中国のある町にアラジンという少年がいました。父親のムスタファは仕立て屋をしていましたが、息子のアラジンは遊んでばかりで、家業を継ごうとはしませんでした」とあるように、アラジンは中国人という設定になっているため、ディズニーの映画を観たイギリスの子どもたちは、アラブ風のアラジンに戸惑ったそうです。

 

アラビアンナイト」は、アラブ世界ではそれほど高い評価を受けて来たわけではありません。大衆向けの下賎な作品集であるということで、知識人がかえりみるようなものではなかったからです。ところが、ルイ14世時代のフランスで奇跡が起こります。一人の東洋学者が訳した「千一夜物語」がベストセラーになり、その後、英語にも翻訳され、生まれ故郷ではたいして注目されることのなかった「アラビアンナイト」が、ヨーロッパで熱狂的に受け入れられていきます。

 

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「世界の童話 4 アラビアンナイトのお話」

発行所 小学館

 

日本で最初にアラジンが翻訳されたのは、明治21年のことでした。日本では、「アラビアンナイト」は二通りの読まれ方をするようになります。アラジン、アリババ、シンドバッドは、子ども向け文学全集の定番となりますが、バグダードやカイロで繰り広げられた恋愛物語のいくつかは、大人向けエロチックファンタジーとしての地位を確立することになります。戦後になると、昭和三十年代に入って普及し始めたテレビの画面にも登場するようになりました。「シンドバッドの冒険」のシリーズや、「アラジンの魔法のランプ」をモチーフにした「ハクション大魔王」、人形劇「ひょっこりひょうたん島」も「アラビアンナイト」に題材を求めた作品です。どの番組も物心がついた頃から観ていましたが、特に「ハクション大魔王」の、数字に弱く、ハンバーグが大好物な大魔王に親しみを感じ、キュートで魅力的な、大魔王の娘アクビちゃんが大好きでした。

 

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この壺や器に盛られている宝石を憧れの眼差しで飽きずに眺めていたのを覚えています。

グリム童話」とは、また違う、魅惑のファンタジーに、子供心にも胸がときめき、ワクワクしました。アダルトでゴージャスな「アラビアンナイト」には、宝石がよく似合います。

 

 

 

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